【幸福湯】20代の女性が銭湯を継いだ理由はシンプルだった

和歌山市にある「幸福湯」は、創業60年を超えるレトロ銭湯。

2019年4月のリニューアルを機に、当時26歳の中本有香さんが4代目の番頭になりました。

 

幸福湯を営む家に生まれた中本さん。

小さい時から生活のすぐそばに銭湯があり、銭湯を経営する上での大変さなど、業界のリアルな内情を一番知っているはず。

 

そんな彼女が、銭湯を継いだワケは?決意の原動力は?などを聞くために、特別に営業前にお伺いし取材させてもらいました。

 

話し手:幸福湯 中本有香さん@kofukuyu4526
聞き手:おふロック@ohu_69

目次

できるだけレトロ銭湯の雰囲気をそのままにリニューアル

ーずばり、リニューアル(2019年4月)する際にこだわった点はなんでしょうか?

 

なるべく、レトロ銭湯の良さを残すことです。スーパー銭湯を目指すのではなく、なるべく銭湯らしさを残すように改装しました」

ーだから、番台も残したんですか?

 

「はい。番台を残したのは、お客さんとコミュニケーションしやすいからです。フロント式でも会話はできるのですが、お客さんの様子を見ることができませんから」

 

ーたしかに、番台の場合より会話しやすかったり、何かあった時にも気付いたりできますよね。

 

「そうですね。フロント式より番台の方がお客さんとの距離が近いと思います」

 

ー浴室は具体的にどういうところが変わったのですか?

 

湯船は深さのあるものに変えて、湯船に入るための段を2段にしました

ー深い湯船は疲れが取れますし、お風呂の段に座ることもできますよね。

 

「これは大阪の銭湯などを参考にしました」

 

ーなるほど。しかも、浴室がとてもキレイですよね。

 

自分がキレイ好きなので、掃除には特に気を付けてます。たまにお風呂に入りに行ってヌルッとしてる時があったら、足を浮かして移動するくらいなんです(笑)」

ーあ、それめっちゃ分かります! 掃除が大変なのでは?

 

「そうなんです。ウチの浴槽は意外と大きいので大変です。もちろんすべてを1人で掃除するのは難しいので、日によっては父や母、叔母、弟が手伝ってくれています

 

ー家族みんなで銭湯を支えられているのですね!

 

「はい。あと、学生のアルバイトさんにも手伝ってもらっていますよ」

 

ーなるほど。ちなみにバイトの方はお風呂に入ることができるのですか?」

 

「もちろん、入浴も付いてますよ」

 

ーいいですね!食事付ならぬ、入浴付。学生の時にそんなバイトに出合いたかったです

ーサウナもリニューアルされたのですか?

 

「はい。リニューアルして作り直しました。定員3名のミニサウナですが好評です」

 

ー水風呂のすぐそばにサウナがあって、動線もバッチリですね。

脱衣所の流し場には、キュートな金魚のタイルもある

銭湯を継ぐというより、この場所を残したかった

ーもともと銭湯を継ぎたいと思っていたのですか?

 

「いえ全く思っていませんでした(笑)。むしろ、小さい時から銭湯を手伝わないといけないことで、遊びに行けないこともあり、嫌だなぁと思っていたくらいです」

 

ーなにかきっかけで銭湯を継ぐことになったのですか?

 

「設備の老朽化してきて、もう廃業しようかってタイミングがあったんですが、そのときに急に寂しくなったんです。その時に行きつけのバーでそのことを話したとき、多くの人にぜひ銭湯を残して欲しいと言われて、こんなに銭湯のことを大切に思ってくれる人たちがいるなら、やってみようかなぁと!

 

ーでも、銭湯を継ぐってすごい決断ですよね? 言葉で言うのは簡単ですが。

 

周りの人には、『すごい覚悟だね』とか、言われるんですけど、私自身は大きな決断をした感覚はないんです

 

ーえ、そうなんですか?!

 

「私にとってこの場所は、昔から生活のそばあって、学生の時も番台に座ったり、掃除を手伝っていたりしていました」

 

ー生活の一部と言いますか、ほんとそばにあったんですね。

 

自分の思い出の詰まったこの銭湯が私は大好きで、この場所を残したかった。ただそれだけだったんです

 

ーなるほど。銭湯が家業の人だからこそ言える、とても説得力のある言葉です。

 

継ぎたいという意思を伝えると、父に反対されました。儲かる商売ではないとわかっていたし、楽な業界ではないですから。ですが、最終的にはやる気を理解してくれ、継ぐことを認めてくれました」

常連さんだけでなく、一見さんや子どもにも来てもらえる銭湯に

ー今後、どんな銭湯を作っていきたいとかありますか?

 

「普段の利用は地域の人が中心なので常連さんは大切にしつつ、一見さんにも気軽に来てもらえる銭湯になりたいですね」

 

ーなるほど。リニューアルしてから変わったこととかはありますか?

 

キレイになったこともあり、最近は子連れの親子も増えてきました

 

ー今、子どもの人がこれからの常連さんになっていけばいいですよね」

 

「そうなんです。また、私が保育士の免許を持っているので、入っている間に子どもを見ておくなど、何かしら自分の資格を活かせたらなと考えています」

 

ーこれからがとても楽しみですね。

おわりに(取材を通して感じたこと)

中本さんがお話をお伺いするにあたり、銭湯を引き継ぐにいたって、よっぽどの大きな決断や葛藤があっただろうと勝手ながら予想していました。

 

ですが、銭湯を引き継ぐに至り、大きな覚悟をした感覚もなかったという言葉には驚かされ、「ただ、大好きなこの場所を残したいから」という、シンプルで本質的な理由がとても心に響きました。

 

インターネットやSNSでいろんな情報があふれる2020年。
決断に悩んだり、迷ったりしたときはスマホでググって、正しい答えを探そうとしてしまいます。

 

だけど、やっぱり最後に決めるものは外側からの情報ではなく、自分の内側から湧き出てくるモノが大切なのだなぁとしみじみ。

 

好きを超えた「この場所を残したい」という彼女の強い使命感は、屋号のように、これからも誰かに幸せを提供し続けることでしょう。

 

 

幸福湯

住所 和歌山市北休賀町31 幸福マンション 1F
アクセス JR和歌山駅・南海和歌山市駅から徒歩20分
営業時間 11時~23時30分(土曜は15時30分~)
定休日 水曜
駐車場 あり
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この記事を書いた人

一人暮らしをきっかけに銭湯にハマる。平日はITベンチャー企業で勤めながら、休日は銭湯やサウナのYouTube動画を作っている。

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